ランニングによる股関節の痛みの原因と対策

「ランニングを続けたいけど、股関節が痛くて走れない…」

こんなお悩みを抱えているランナーさんも意外と多いのではないでしょうか?

脚を前に出したり着地の際に体を支えたりと、ランニングで重要な役割をするのが股関節とその周りに付随している筋肉になります。

一方で、地面からの衝撃が直に身体に返ってくるランニングでは、股関節は足裏や膝などと共にダメージを受けやすい部位でもあります。

ここでは、ランニングによる股関節の痛みの種類と症状、その原因と対策を解説していきたいと思います。

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股関節の痛みの症状と発症原因

股関節周囲炎

股関節に関連する主な筋肉である、大腿四頭筋、内転筋、大臀筋の痛みも股関節の痛みと扱われることがありますが、これらの筋肉や付随する腱が炎症を起こすと『股関節周囲炎』と呼ばれる症状になります。

レントゲンでは異常が写らないのに痛みがあるというのが特徴でもあります。

四十肩や五十肩と呼ばれる肩関節周囲炎の症状が股関節で起こっていると捉えるとイメージしやすいかと思います。

具体的には、股関節周囲に付着する筋肉の腱の部分や関節を支える靭帯や、関節包と言われる組織が炎症を起こして、慢性化すると炎症が治まっても痛みがで続けてしまうといった特性も持っています。

股関節周囲炎が発症する主な要因

・関節リウマチ:
自己免疫疾患でもある関節リウマチは、股関節周囲炎を引き起こす可能性があります。

・感染:
バクテリアやウイルスによる感染が股関節周囲炎を引き起こすこともあります。
特に細菌性関節炎は、重度の痛みや関節の腫れを引き起こす可能性があります。

・外傷:
股関節を直接的または間接的に傷つけることによって、股関節周囲炎が発生することがあります。
骨折や損傷によっても引き起こされる可能性があります。

・痛風:
尿酸結晶が関節周囲に沈着して炎症を引き起こすことがあります。

・股関節形成不全:
股関節形成不全や先天性の異常がある場合、股関節周囲炎のリスクが増加する可能性があります。

股関節周囲炎の主な症状

・股関節や周辺の痛みやこわばり
・骨盤に筋肉が付着する部位や股関節周辺の筋肉そのものに圧痛がある
・関節の可動域の制限
・股関節周囲の腫れや熱感
・動き出しの際に痛みが出る

変形性股関節症

股関節の軟骨が変形して摩耗することで起こる症状が、『変形性股関節症』です。

関節症が進んで初期関節症になると、関節の隙間が狭くなったり、軟骨下骨が硬くなったりします。 さらに進行期関節症、末期関節症となると、関節の中や周囲に骨棘とよばれる異常な骨組織が形成されたり、骨嚢胞と呼ばれる骨の空洞ができたりして、最終的には体重がかかる部分の関節軟骨は消失してしまって、その下にある軟骨下骨が露出します。

股関節の軟骨が劣化することで、骨同士が直接接触し、痛みや機能障害を引き起こします。

変形性股関節症は、加齢に伴い発症するケースが多いですが、若年者にも影響を及ぼす場合があります。

変形性股関節症が発症する主な要因

・加齢:
加齢により、関節軟骨の再生能力が低下し、劣化が進行します。

・過度の負担:
過度な運動や肥満など、股関節に長期間にわたって負担がかかることが原因となることがあります。

・先天性の異常:
股関節の形態学的な異常や先天性の疾患がある場合、変形性股関節症のリスクが増加します。

・外傷:
股関節の外傷や怪我が、変形性股関節症の発症を促進することがあります。

変形性股関節症の主な症状

・股関節の痛みやこわばり
・歩行や立ち上がり時、運動時の痛み
・関節の可動域の制限
・股関節の炎症や腫れ
・関節の変形

寛骨臼形成不全

寛骨臼形成不全は、日本人女性に比較的多く見られる骨盤の形成異常です。

寛骨臼形成不全は、股関節の形成過程で、寛骨臼(関節窩)が正常に発達せずに、股関節の形態が異常な状態になってしまう疾患です。

そのため骨と骨が接する面積が小さく負担がかかってしまい、軟骨がすり減りやすくなって、成長期から高齢になるまでの間に徐々に痛みが出たり動きが悪くなったりしていきます。

寛骨臼形成不全が発症する主な要因

・遺伝要因:
家族歴がある場合、DDH(発育性股関節形成不全)の発症リスクが高まります。
親や兄弟姉妹がDDHを持っていると、発症する可能性は高くなります。

・環境要因:
赤ちゃんが子宮内で胎位が不十分である場合、または出産時に胎児の位置が異常な場合、寛骨臼の形成に影響を与える可能性があります。

・性別的要因:
女性は男性よりもDDHを発症する可能性が高い傾向があります。

・妊娠:
第一子を妊娠した場合、子宮内の圧力が高まり、胎児の位置が影響を受ける可能性があり、これがDDHのリスクを増加させると考えられています。

・外傷:
出生時や生後期に腰を強く押されるなどの外傷がある場合、寛骨臼の発達に悪影響を与える可能性があります。

寛骨臼形成不全の主な症状

股関節が外側に脱臼しやすくなる
・股関節の異常な圧迫や摩擦により、痛みが生じる
・寛骨臼形成不全が進行すると、歩行に支障が生じる

グローインペイン

グローインペインはランニングなどの運動をした際に、下腹部や鼠蹊部に起こる痛みの症状で、具体的にはランニングやキック動作、股関節を曲げた時に股関節に痛みが出る症状です。

一般的には、股関節の周囲の筋肉や靭帯、骨盤周辺などの腰部や腹部の筋肉群に問題がある場合に痛みが発生します。

グリーインペインが発症する主な要因

・軟部組織の損傷:
股関節や腹部の周囲にある筋肉、靭帯、腱などの軟部組織に損傷が生じることで痛みが発生することがあります。
また、股関節周辺の筋力低下も原因として考えられます。

・股関節の問題:
股関節の変形性疾患や炎症性疾患、または股関節の周囲組織の炎症がある場合、グローインペインが発症するリスクが高くなります。

・神経の圧迫:
腰部の神経が圧迫されたり損傷を受けたりすると、グローインペインが発症することがあります。
特に腰椎の椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの問題との関わりが大きいです。

・内臓の疾患:
まれに、内臓の疾患(例:腸の炎症、膀胱の問題)がグローインペインを引き起こす場合があります。

グローインペインの主な症状

鼠蹊部周辺に突然の鋭い痛みやひりひり感が生じる
・走ったり、跳躍したり、急激な動作をしたりすると痛みが増す
・腰部や太腿、お尻の付近にかけて放射痛を引き起こす
・グローインペインが重症化すると、関節の可動域が制限される
・鼠蹊部周辺に腫れが見られる

坐骨神経痛

ランニングで股関節の後方や臀部が痛む人は、坐骨神経痛が原因であるケースもあります。

坐骨神経は、腰椎の下から臀部、大腿部、膝、脛、足の指まで走行する大きな神経で、坐骨神経痛は、この神経が圧迫されることによって痛みやしびれ、脚の付け根などに症状が生じる状態です。

坐骨神経痛が発症する主な要因

・椎間板ヘルニア:
腰椎の椎間板が損傷し、内部のゲル状の物質が外に漏れ出ることで、坐骨神経が圧迫されることがあります。

・脊柱管狭窄症:
脊柱管内の空間が狭くなり、坐骨神経が圧迫されることがあります。

・腰椎の変形:
脊椎の変形や骨棘の発生によって、坐骨神経が圧迫されることがあります。

・筋肉の緊張:
腰部や臀部の筋肉の緊張が坐骨神経の圧迫を引き起こすことがあります。

・外傷:
腰椎や骨盤の外傷が坐骨神経の圧迫を引き起こすことがあります。

坐骨神経痛の主な症状

・腰から臀部、大腿、脛、足の指にかけての痛みやしびれが発生する
・痛みが臀部から脚の付け根や裏側に広がる
・歩行や座位など状態の変化によって症状が悪化する
・歩行やランニング時に下肢に痛みが出る

股関節の痛みが発症しやすい走り方と対処法

股関節の痛みには、先天的な疾患を伴うものから、後天的に何らかの機能障害を発症してしまうものまで、その原因は多岐に渡りますが、ランニングを始めてから股関節に痛みを感じ出したという方は、後者が原因であるケースがほとんどです。

つまり、股関節を正しく使えずに、何らかのストレスを与えた状態で走ってしまっている可能性が高いです。

股関節を正しく使えていなかったり、ストレスを与えてしまったりしている人の走り方には特徴があるので、ここでは、その代表的な特徴をいくつかご紹介してみたいと思います。

パワーポジションが取れていない

ランニングの最重要関節は股関節になります。

股関節というのは、人間の関節の中で最も大きい関節で、他の関節にはない特徴として、三次元に動かすことができる『球関節』であるというのがあります。

他のほとんどの関節は、1次元もしくは2次元方向にしか動かないので、それらに比べると、本来は自由度の高い関節になります。

そして、ランニングをする時のポイントは、しっかりと股関節でパワーポジションを保持するということです。

パワーポジションというのは、人間の身体が次の動きに移行する際に一番動きやすいポジション、最も筋発揮しやすい姿勢のことを言います。

ランニングは常に前方へ移動し続ける運動なので、足が地面に接地した瞬間に次の動作へ移行するために、パワーポジションを取り続けることが、身体に無理な負担をかけずに走り続けるポイントになるのですが、このパワーポジションにズレが生じてしまっていると、ハムストリングや大臀筋が上手く機能せずに、股関節周辺の組織に微細損傷が蓄積されてしまい、痛みが生じてしまうことがあります。

ランニングで着地をする際は、膝関節や大腿四頭筋ではなく、しっかりと股関節に自分の体重の乗せる感覚を持つことでパワーポジションを保持することができます。

股関節周辺筋群にストレスを与えないためにも、しっかりとパワーポジションをとって走るようにしましょう。

深層外旋六筋が使えていない

そして、股関節のパフォーマンスに大きな影響を与えるのが、「深層外旋六筋」と呼ばれる股関節のインナーマッスルです。

あまり馴染みのない筋肉だと思いますが、日常生活ではほとんど使われないので、脳がその存在を忘れると言われるくらい小さくて繊細な筋群です。

特に運動に馴染みのない方や、デスクワークなどで一日中座っているような仕事をしている方は、この深層外旋六筋は衰えてしまっていることが多いです。

逆に、深層外旋六筋がきちんと働いてくれれば、大腿骨が詰まったり引っかかったりすることなくスムーズに動き、股関節が正しい位置に収まってくれるのでパワーポジションも取りやすくなります。

一般的なランニングによる股関節の痛みでは、この深層外旋六筋の機能不全や、股関節との癒着が原因で発症するケースが多いです。

股関節を正しく動かせていない

股関節を痛めてしまうランナーさんによくありがちな動作としては、股関節の伸展動作(後方へ脚を伸ばす動作)がないまま走ってしまっているという状態です。

特に初心者ランナーさんなどは、股関節の伸展運動無しで、股関節の屈曲運動(腿を上げる動作)のみで走ってしまっている方がとても多いです。

この場合、地面を蹴らずに踏み込む力のみで身体を前方に運ぶという、運動効率の悪い走り方になってしまっていますし、地面を踏み込むことで身体を前に進めようとすると、どうしても重心が下がってしまうので、フォームも崩れてしまい、下半身への負荷や疲労が過剰に蓄積されていってしまいます。

走る時に、股関節の伸展よりも、屈曲の動きが強くなってしまうと、股関節本来の自由度に制限をかけた状態で走ってしまっている状態なので、運動効率が落ちてしまうばかりか、深層外旋六筋など、股関節周辺の硬さや癒着を誘発してしまって、結果として炎症などの痛みを発生させるリスクも高まってしまいます。

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